俺は いつものように屋上で雲を眺めていた。



晴れた日には......Akira×Nobuko 01



「・・・・あ。」

 屋上に俺等が勝手に置いた机と椅子。
机の上に座って足を体育座りにさせて空を見ていると人の気配に気づいた。
目を細めて振り返ると、野ブタが何かを抱えて立っていて。

「・・・・ごめ・・・。邪魔した・・」

 長い前髪で隠れている顔をさらに俯けて。手に持った何かをぎゅっと抱え直した。
俺は机から足をおろし、反動をつけて飛び降りる。
ポケットに手を突っ込みながら野ブタの顔を覗きこむと、くるりと背を向けた。

「どうしたんだ〜っちゃ?」

 後ろを向いて縮こまった野ブタの前に移動すると、さらに背中を丸めるようにして俯いた。
なんだ?今日の野ブタ。いつも以上におかしい。
 ツンツンと指で後頭部を突付くと、目だけで俺を見る。
このあいだまで心ここにあらずな目をしていたのに。
最近は普通に目に光が宿っている。

 これも、修二と俺のお陰か〜もねん。
なんつって。ヒャハハ。

「どぉしたの〜ん?」
「・・・あ・・・あの・・・。」

 蚊の鳴くような細い声は耳を良く澄まさないと聞きとりにくくて。
俺は首に下げた愛用の赤いメガホンを耳に当て、野ブタの口元に近づけた。

「ぉ・・おべ・・・おべんと・・・。」

 尻すぼみになりつつ声を発すると、野ブタは抱え込んでいた包みを俺に向けて差し出す。
青色の布に包まれたものの上に、オレンジ色の布に包まれたものが重ねてあって。
形とサイズ。そして野ブタの言葉に、それが手作り弁当だと察した。


「うを!?まぁぢでぇええっっ!?」

 数歩後ろに後ずさりながら俺は目を見開く。
コクンとうつむいたまま頷く野ブタ。

やっべぇ。 俺、かなり嬉しいかも。

 机に椅子をもう一つ持ってきて、向き会うようにして座る。
野ブタが自分の方にオレンジ色の包みを置き、青いほうを俺に差し出す。

「あざーっす!」

 両手で受け取り、頭を深々と下げると無言で野ブタは頷いた。
いそいそと包みを開ける俺を野ブタはずっと見ていて。その表情から凄くドキドキしているだろうことが解かる。

 やばい。俺もドキドキ。

「うゎ。すっげー。まぁっじスゲー!!これ野ブタが作ったんか!?」
「・・・・うん・・・。」

 色とりどりの野菜。鳥のから揚げ。タコの形に切られたウィンナー。
ご飯の上には肉のそぼろが振り掛けられ豚のイラストが桜色のハムで作られていた。

 ご飯を一口頬張ると、甘辛い肉の味。
醤油ベースの煮物って難しいんだろ?すげくねぇ!?

「野ブタ。おまえマジこんな特技なーんで隠してたんだーっちゃ?」
「・・・・・隠して・・・は・・いないけど・・・。」

 箸の持つほうで野ブタの額を小突くと、ウィンナーを口に含みながら野ブタが答える。
机に並べられた二つのお弁当は、まったく同じ内容で。
これはきっと、教室で食ってたら冷やかされるに決まってる。

「すげーすげー。まぢすげぇー。」

 俺は大事にひとつひとつの食材に箸をつける。
その様子を野ブタがジッと見ていて。
俺が視線に気づくと、野ブタは慌てて自分の弁当に目線を下げた。

 ・・・・・あれ?
なんか違和感。

 ふと野ブタの弁当箱を見て俺は気づいた。
なんだろう。なにかが違う。と。


「のーぶたっ。」
「・・・・・なに・・・?」

 桜の形に切られた人参を箸に掴み、顔を上げた野ブタの前に差し出す。
野ブタの瞳が少し揺れたのを見て俺は確信した。


「野ブタさぁ〜。人参嫌いっしょ。」
「・・・・・・・っ・・。」

 交互に見比べて気づいた。
野ブタの弁当の中には、飾り付けられた人参が無かった。

「好き嫌いはダメなのよ〜ん。はい。あ〜ん。」
「・・・・ぃ・・・いらない。」

 首をブンブンと勢い良く横に振り、野ブタは完全拒否の姿勢を崩さない。
こんなに可愛く俺の弁当には盛りつけたくせに。


「ね〜ね〜。今度さぁ。俺とデートしよっかぁ。」
「・・・・・え・・・?」


 箸をおいて、弁当箱を挟むように机に肘をつく。
その手を顔の前で組んで、野ブタのほうに顔を近づけた。

「今度のぉ〜。晴れた日に。 んねっ?」

 しばらく考えたように黙りこんで、野ブタは小さく頷いた。
俯いた野ブタの額に自分の額をくっつけて。
組んだ手を解いて野ブタの頬を包む。

「こないだぁ、野ブタがシッタカ達とデートしたところ。お台場の公園でピクニックしよ。」


 弁当は俺が作るから。と言うと、一瞬野ブタの表情が固まった。





 今日の帰り。
 修二を誘ってゴーヨク堂に行こう。

  人参の美味しい食べ方。とか本あるかぬん?



 晴れた日に。野ブタの笑顔が見れますように。




初。ドラマ・文芸書パロ。何話めとか気にしないでねん。


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