見上げた空は

 高く、高く

 私を手招きしていた。
 




空を見上げる






「おかえりなさい。ジェーン。」
「ママ。ただいま。」


 自分の子どもを送り出すとき
どんなに自分も飛び出したかっただろう。

 小さく瞬く星に
見えなくなるまで手を振り続け、飛びたった後をいつまでも見つめた。

 まさかまた、あの人に逢えるときが来るとは思わなくて。
もう私のことは忘れたのだと思った。


 だけどいつも彼は気紛れで。


 きっと突然私の事を思い出したんだ。



「冒険に行こうウェンディ!!」


 私にはもう飛ぶ羽根は無くなった。
きっともう妖精の粉も、私には効かない。


 夢見る心を、どこかに落としてきてしまった。



 貴方は悲しそうな目をするだろうか。

 大人になった私を見て、何と言うだろうか。





  それでも、手を差し伸べてくれるかしら。



 ジェーンから聞く彼の話は、すべて昔と変わり無く。
あどけない彼の笑顔が私の脳裏によみがえる。




 無理かしら。
    もう空を飛ぶ事は。
 叶わないないかしら。
    二度と貴方と過ごすことは。



 どんなに願っても、時の流れは遡る事は無く。
巡ってしまった私の時間は、もう彼と同じに進む事は無い。





 空を見上げると、真っ白な月が
まるで、永遠の島の入り口のようにぽっかりと浮かんでいた。


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