真っ暗な空に

 ひしゃくの様な星が瞬いて

 白い月は半分だけになっていた。


うれしい時間.....Sanosuke×Megumi 01 かわいい・恋10題 No,4



 真昼の炎天下が嘘のように、涼しげに瞬く星明かりの下、高荷恵は往診を終え一人町の中心を流れる川沿いを歩いていた。
夜中に女一人だと物騒だ。往診先の男にそう言われたがその男の下心も見え見えで。
恵は丁重にお断りして足早に帰路につく。

「・・まったく。男ってどうしてああも見え見えのことをするのかしら。」

 薬の調合を少し変えてやれば良かったわ。
そんな物騒なことをつぶやきながら、恵は空を見上げた。

 女医としてのこの数年。
未だにまだ「女だてらに」と言われる瞬間が、恵は一番嫌いだった。
さきほどの往診先の男のように、女をそういう風にしか見ない奴も・・・。

 だけど、唯一。

 神谷道場の男どもは違う。
中でも相楽左之助という男は、対等にむしろ自分を一目置いてくれているような気さえしていた。


 夜空は一つの明かりも見えず、だたチラチラと星が囁く。
歩を緩め、目を瞑り。涼しい風に頬を晒す。


「・・・落ちたいのか?」


 背後から声とともに、腰に手が伸びる。
ビクッと肩をすくめ目を開き伸びてきた腕を掴み振り返ると見知った顔がそこにはあった。

「・・何よ左之助。」
「確かに暑いけどよ。水はまだ冷たいと思うぜ。」

 医者が風邪を引く気か?と口端を上げて笑う左之助をよそに、恵は自分が歩を進めていた先を見る。
目前には10尺幅ほどの堀がありそこには水が流れていた。
背筋に悪寒が走ったのは言うまでも無く。恵は一歩後退すると背中を左之助の胸に預けた。


「・・・あ、ありがと。」


 深さは3尺ほどだけれど、目を閉じたまま落ちていたらわざと飛び降りた時よりも酷い怪我をしていたかもしれない。
そう思うと恵は預けたままの背中を起こすことが出来ずにいた。
そんな恵を知ってか知らずか。背後から回した腕もそのままに左之助は言う。


「一体何を考えてたんだ?お前がぼんやりするなんてなぁ、想像もつかねぇや。」
「う・・うるっさいわね。」
「・・・。まぁいいさ。無事だったんだからよ。」


 そういうと左之助は恵の腰に回した腕をするりとほどき、ポケットに手を突っ込んで歩きはじめる。
手持ち無沙汰に首に手をあてコキッと骨を鳴らし、手近な木の葉枝を手折り口に咥える。
何だか小さく鼻唄も聞こえた気がするのは、恵の気のせいでは無いらしい。


「・・・何してんだよ。早く帰ろうぜ。」


 振り向いた左之助の頬は、暗闇の中でもほんのりと染まっているのが解かった。
立ち止まり、大きく欠伸をしながらも。

 面倒臭いと言いながら、恵の帰りが遅いときは迎えに来てくれる。
喧嘩して、もう来なくていいわ。と行った時も。必ず姿を現す。


 くすりと恵は笑うと、ゆっくりと走り寄るとその腕にしがみ付いた。
ありがとう。と小さく聞こえた気がしたが、左之助はいつものように口端をあげて笑っただけだった。



 雑長屋にはきっとまだ夕食の準備は無く。
だけど今からきっと窓の隙間から湯気があがるだろう。









え。同棲設定ですかね?(聞くな。)


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