「ねぇ。里奈は?」
「まだ来てない。」



携帯電話.....Short #01



 土曜日。
あたしと、園子と里奈はショッピングに出かける約束をしていた。
映画を見て、美味しいパフェを食べて。
夏に向けて洋服や靴を選んで・・・。

「里奈って時間には正確なのにね。」
「園子の携帯とかに連絡きてない?」

 園子とあたしは揃ってカバンから携帯を取り出して開く。
園子の携帯はちょっと古い機種のストレート型。あたしのは二つ折りの最新型。
着メロには興味無いの。と園子は言う。


 ピピピピピ。


 カバンから取り出したと同時に、園子の携帯が鳴った。
今時珍しい単音の無機質な音が、町の雑踏に混じりかすかに聞こえた。

「・・・非通知・・・?」
「出てみなよ。」

 おそるおそる園子は携帯を耳に近づける。
私を見つめる瞳は少し不安げで。

「もしもし?」
『もしもーし。里奈だよー。』

 お世辞にも、都会とは言えないこの町の中。
だけれど人の行き来は激しく、車や人々の話し声に近くにいても少しボリュームを上げて話さなければならない。
それでも電話を受けていないあたしの耳にも、かすかに電話越しの里奈の声が聞こえた。

「里奈ー!?何やってんの。今どこー?」
『ごめんねー。今バスがちょっと遅れてるのー。もちょっと待っててって由香にも伝えてね。』

 だってさ。と携帯の電源を切った園子はクスっと笑った。
あたしと園子は暫くの間、通りをブラブラすることにした。




 ウィンドウショッピングをして、CDショップを覗いて。
そういえば、さっきの店でみた白いワンピース。里奈が好きそうだよね。
そんな話をしながらちょっと休憩しようかと、自販機でペットボトルのジュースを買った。
そろそろ里奈から電話があるんじゃないかと、お互い携帯を見遣る。

 デジタル時計が、正午を表示しようとしていた。
待ち合わせるはずだった時間を2時間過ぎていた。
里奈からの着信履歴はお互いに無く、もしかしたら待ちあわせ場所にいるかも。
そう思い足を踏み出した瞬間。

 ピピピピピ。

 またも、園子の携帯が鳴った。

 慌てて園子が携帯を取り出すが間に合わずプツリと切れた。
由香のに掛かるかも。と言うのであたしの携帯を見る。


【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】
【着信アリ】


「何!?これ!!!」
「公衆電話からだね全部。12:08分・・・。里奈かな。」

 着信履歴に、何十件もの公衆電話からの着信があった。
どうして着メロが鳴らなかったのか。
あたしは首を傾げた。

「・・・・あたし。公衆電話と非通知は着信拒否にしてた・・・。」






 園子の顔を見ると、園子は道路向かいの大きなデジタルテレビに目を向けていた。
あたしも園子の見る方に目を向けると、ちょうど画面上に白文字のテロップが流れた。



『午後12時8分頃○○町内でバス横転炎上。乗客安否未だ不明。』






 バスは道路脇の、今はもう使われていない未撤去の公衆電話に衝突していた。









不思議な話しを書きたくて。この話は去年の作品。


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