あたしの彼氏は歳下で。
 なんか、テレビとか出ちゃってるひとです。



せいいっぱい想う.....Short #04 かわいい・恋10題 No,8



 携帯の機能は、ココ数ヶ月でぐんとアップする。
半年前に変えたあたしの携帯なんか、もうすでに古いと言わんばかりに、もうすでにテレビのCMにすら出なくなった。
 めまぐるしく回る世の中は、立ち止まっていても進むから、ついて行くので精一杯。
ついて行けてるだけマシなだけで、取り残されたらもう終わり。
 なんの価値もない。

「・・・携帯変えたいなぁ。」

 ボソリと呟いたあたしの横で、いつものようにベッドに寄りかかりながら雑誌をめくっていた彼は、そっと顔をあげた。
カサッと乾いた音を立てて、雑誌のページが少しだけパラパラと元に戻った。
 ボタン音を消去しているあたしの携帯は、カチカチとプラスチックの曲がるような音をたてて意味の無い数字を表示した。
ぼぅっと画面を眺めながら無意味に数字のボタンを押す。
 こうやって、ただぼぅっと座ってるだけなんて。
時間の無駄だと思う。

「・・・・俺とお揃い。いやなの?」

 もう少しで通話ボタンを押しそうになったあたしの手から携帯を取り上げて彼が言う。
音のしないクリアボタンを彼が押すと、携帯の画面から数字が消え待ち受け画面に変わる。
しばらく放置していると、画面の照明も消え、いま主流となっている折たたみ式の携帯は彼の手によってベッドの上へと投げ出された。

「いやってわけじゃないけど?」
「欲しいのあるの?」

 そういうわけでもない。
小さく呟くと、あたしは彼の持っていた雑誌を取り上げた。

 意味もなくパラパラと雑誌をめくる。
なんてことないファッション雑誌で、道行く人が皆着てる様な服を来たモデルが笑顔で映っていた。

「これ、俺でてんだ。」
「・・・シュンが?」

 横から手を伸ばしてページをめくる。
彼がページを開くのを見ながら、テーブルに置いたオレンジ色の液体の入ったグラスを手に取った。

 窓ガラスを締め切ってクーラーの効いた部屋から見ていると、絶対に外には出たくないくらい良いお天気だ。
せわしく鳴く虫は暑くないのだろうか。あんなに喚いて喉が乾かないのだろうか。
 そんなどうでもいいことを考えながら、冷たい液体をゴクリと飲み込む。

「ほら。ここ。」
「ん。」

 自分が載ってるから買ったの?と聞くと。まさか。とだけシュンは答えた。


 見慣れた彼の顔は、雑誌の中でもやっぱり同じ顔で。
ちょっとだけ、胸にひっかかった。

「良くわかんない。」
「結構映り良くねぇ?このジーンズとか気に入ってんだけど。」

 グラスをテーブルに置くと、水滴がコルクのコースターに染みた。
カランと涼しげな氷の音に、ちょっとだけ外の蒸し暑さを忘れさせられた。

「・・・・あたし、このジーンズ見たことない。シュンのなの?」
「俺の。見たことなかった?」

 そうだよ。
あたしは呟くと立ち上がり、ベッドの上に座った。
ここは週に1回来るか来ないかの部屋で。
忙しい彼が夜中に寝に帰るだけの部屋は、見渡すとまだ新築のように綺麗だった。

「・・・ナオ・・・。」

 座ったあたしを見上げ、少し声のトーンを落として名前を呼ぶ。
ゾクリと背筋になにかが走るような感じがした。

 1人しか寝ないくせに、なぜかダブルの彼のベッドはスプリングも最高で。
閉じて座るあたしの足を跨ぐようにして、あたしの首に手をかけた。
小さく軋むベッドに後頭部を押さえられながら横たえられる。
 唇に触れたシュンの吐息だけで、あたしはもう何も考えられなくなっていた。







「・・・怒ってたハズなのになぁ・・。」
「あ、やっぱり?」

 肩まで布団をかけてベッドに横になるあたしの髪を漉きながら、シュンは笑った。
トランクスを履いただけの格好で部屋を出て、彼は冷えたペットボトルのミネラルウォーターを持ってきた。
情事のあとは、あたしが必ず水を欲することを彼は知っている。

 一口水を含み嚥下すると彼がボトルを取り上げ、残りを飲み干した。
また持ってきてあげるから、と言いながら立ち上がりベッド下のテーブルに置く。
500mlボトルを一気飲みだ。こんな姿、ファンが見たらなげきそうだな。と思った。

「・・・・・・面白くない。」

 そんなシュンの背中を見ながら、顔を背けてぽつりと愚痴をこぼす。
顔を見なくても、驚いたシュンの表情を肌で感じた。
 羽毛の入った彼の布団はフカフカして睡魔を誘う。
シュンはそっと布団に入ってくると、後ろからあたしを布団ごと抱きしめる。
 ずっと、ずっと、ずーっと。
喉まで出かかっててヤメていた言葉を、意を決して吐き出した。



「・・・シュンがテレビに出るのヤなの。」

 ほんとは。

「シュンが、雑誌に出るのヤなの。」

 あたしに向ける笑顔を、雑誌を通して他のひとに向けないで。


 彼は芸能人で。
 格好良くて、優しくて。

 すごく暖かくて。

 いち婦女子として、世の中の女の子達が憧れるのに共感できるし。
テレビや雑誌で見せる顔を自分のものにしておきたいと皆が思うだろう。


「だけど。」

 肩まで被っていた羽毛布団を、彼が腰のあたりまで剥いだ。
ぎゅっと抱き締められると、喉のあたりが熱くなった。


「だけど。」



   シュンはあたしのものなの。




 進化しつづける世の中に、置いてかれないように思いっきり背伸びした。

 前を進む彼に追いつこうと、思いっきり早足で歩いた。


  忘れないで。
  置いていかないで。


   ・・・・捨てられるのが怖い。

   飲み干されたボトルのように、ポンとほおり出されるのが怖い。








「バカだねナオ。」
「へ?」

 変なかお。
シュンはそういうと、あたしの両頬を軽く摘む。

「なに?お前そんなこと心配してたの?」

 さも、ばっかじゃないの?と言わんばかりの彼の顔に正直ムッとした。
ええ、そうですよ。
所詮一般人ですもの。くっだらないことしか頭に浮かばないんですー。

 ぷぅっと頬を膨らますと、ニッとシュンは笑う。



「俺が、ナオに捨てられないか冷や冷やしてんの!!」

 ほら。毎日会えるわけじゃないし。
その間、変な男とか寄ってこないかいっつも心配してるんだからね!
俺に言わないで飲みにとか行っちゃダメだよ!?


 シュンが一気にしゃべるその姿に、あたしは目を丸くした。
そんなあたしに気づいてか、ハッとして喋るのをやめるとシュンは頬をちょっとだけ赤く染めた。

「と、とにかく!」

 目線を少し逸らし照れたようにシュンはまた口を開く。
そんな彼の腰に腕を回し、頬を胸につけた。

「さっきみたいに、軽く携帯変えたいとか言わないで?」
「なんでよ。」
「俺も・・・・そんな簡単に変えられちゃう時がくるのかなって・・・。」

 思ったり・・・なんかして・・。
呟きながら、みるみる顔を真っ赤にするシュンを可愛いと思う。


「変えない。変えないよ。 シュンだけ。シュンだけだよっ。」
「・・・・・・・うん。」

 急にお姉さんぶっちゃって。
シュンはくすっと笑うと、水で潤った唇をあたしの唇にそっと触れさせた。



「俺に必要なのはナオだけだから。」



 交差点の真ん中で立ち止まっていたあたしを、シュンがひっぱってくれた。
また、シュンが先を行くのかと思ったら、並んであるいてくれた。

 今度は追いかけるんじゃなくて、一緒に歩いてこう。


     あたしはあたしなりにせいいっぱいシュンを想おうと、誓った。。









お気に入りの芸能人を思って(笑)ちょいドリーム的な。オリジナルの名前考えるのヘタです。


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